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不動産
碧桂園(カントリー・ガーデン)デフォルト、何故なのかを解説
恒大集団(エバーグランデ)の問題が騒がれたのもつかの間、中国の現最大手不動産企業である碧桂園(カントリー・ガーデン)が発行したドル建て社債の利払いを期限である2023年8/7に履行できなかった事がニュースになりました。
9/6を期限とする今回の利払いに関しては碧桂園は支払う事が出来、ギリギリ首の皮一枚をつないだと言えますが、今後も困難が続く事は間違いありません。
ムーディーズの格付けもCaa1からCaに3段階引き下げられ、最低格付けのCもあり得ると報道が出ています。
この記事では碧桂園が何故中国最大手の開発企業にも拘わらず世界を騒がす事態になったのか中国不動産市場の根源的な仕組みを解説します。
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目次
碧桂園も続くデフォルト問題、どこまで広がっていくのか?
8月の利払いを支払う事が出来ずにデフォルトが懸念されていた中国最大手デベロッパーである碧桂園(へきけいえん)ですが、デフォルトのニュースが流れると大きく株価を下げましたが、利払いが行われると株価は反発。下げた分をそのまま戻したような値動きをしています。8/6と9/6を比べると同水準である事が分かります。※画像はロイター
しかし、このチャートをもっと長い期間で見てみると低迷する株価が浮き彫りになる事が分かります。
※ロイター
2020の恒大集団デフォルト危機のニュース以降株価を大きく下げている事が分かります。
多くの開発業者が同じような株価の値動きを見せており、2017年の最盛期から比べると大きく株価を下げている事が見て取れます。
それでは、一体何故碧桂園が低迷していく事となったのかを見ていきたいと思います。
何故碧桂園はデフォルト危機になったのか?
中国不動産バブルの崩壊を理解するには中国不動産の特徴を理解しなくてはいけません。
日本と異なり、中国では土地の所有権という考え方はありません。
全ての土地は国有地であり、借りる権利が売買されるだけとなります。
「使用権」と呼ばれる土地権利を購入して上物を建てるのが基本的な考え方です。
日本での借地権のようなものだと考えると良いでしょう。
そして、その土地を管理するのは地方行政です。
民間の不動産開発業者は各自治体より土地の使用権を購入してマンション開発を行っていきます。
ここが第一のポイントとなりますが、不動産開発業者と各自治体の利害の一致が挙げられます。
中国には中央政府があり、各自治体毎に財政管理を行っています。
地方行政からすると財政を健全化、収益を増進する事が目標として掲げられます。
地方都市で収益を出す事は如何に経済成長の只中にある中国とは言え、簡単な事ではありませんでした。
そこで目をつけられたのが土地の使用権売買です。
使用権の販売は容易に地方行政の財政を潤す手段でした。
この事から中国全土で使用権販売が地方行政を潤す手段として持て囃されたわけです。
イメージしてみて下さい。
自分が地方自治体の権力者だとしましょう。
中央集権の中国で出世争いの只中にあるとしたらどうやって利益を上げるでしょうか?
全国で使用権の売却が出世への特急券だと知られていたらどうでしょうか?
各地方自治体はこぞって使用権の販売に勤しみ、中国全土で不動産開発が活発になるのです。
プレ販売がもたらす社会現象
中国不動産開発で忘れてはいけないのがプレ販売です。
これは建物が竣工するよりも前に物件の売買を行う事を指します。
もともとは香港で通用していた販売手法であり、竣工前に売買代金の一部を供託し、完成後に不動産業者に引き渡される仕組みを取っていました。
供託とは銀行に支払代金として預けて置き、竣工した後に銀行より引き渡される事を言います。
デポジットを預けておくという事ですね。
不動産業者は資金があるという事を担保として安心して建築を進められますし、買い手は供託しておくことで実際に引き渡されてから支払いが行われるので両者にとって信用を生む仕組みでした。
しかし、中国全土で広まったこのプレ販売では供託という部分が緩和されます。
お金を預けるのではなく、不動産業者に支払われてしまうのです。
つまり、売買契約→金銭消費貸借契約→建物竣工→決済→引き渡しという本来の流れが
売買契約→金銭消費貸借契約→決済→建物竣工→引き渡しという流れになっているのです。
何が違うのかと言えば不動産業者は建物の引き渡しを行わなくても売買代金を受け取れるという部分が大きく違います。
この仕組みにより中国の不動産デベロッパーはプレ販売として開発用地を販売し、その売り上げで次の開発を行う事が出来ました。
建物が建って、建設業者に支払うまでに次の開発物件をプレ販売してしまい、その売り上げで過去の開発物件の支払いを行うという事が可能になったのです。
このプレ販売という仕組みと使用権販売の拡大という2つの特徴が中国不動産バブルを巨大化させた要因と言えます。
14億人の人口に34億戸のマンション
拡大する不動産バブルはいよいよ中国人口を超えるマンション供給を生み出します。
中国全土に人の住まない新築マンション「鬼城」と呼ばれる街が群立していきます。
それでも人々は不動産バブルの只中をひた走り、自分が住む用ではない投機用のマンションを購入していきました。
バブルはいつかは弾けます。
これは日本でも、韓国でもアメリカでも同様でした。
最初に足を抜くのは銀行で、最後にババを引くのは常に買い手となります。
中国の場合銀行はそもそもプレ販売の段階でローンを実行していますから、マンションがどうなろうがローンの支払いは始まります。
強いてリスクを挙げるなら担保となるマンションが無い事です。
開発業者が共同債務に入るのか、何らかの保険があるのか分かりませんが、銀行のリスクは一定になるように手配している事でしょう。
今ローンの支払いだけが残った人々が不払いを実施しています。
これもいずれ社会現象となるかもしれません。
しかし、現実的にはローンを逃れる事は難しいと思います。
金融機関はあくまでも債務者の希望により貸し付けを行いました。
事情があるとはいえ、銀行は善意の第三者として扱われるでしょう。
となると圧倒的にリスクを抱えるのは買い手である購入者です。
マンションは建たない、ローンは残ると散々な事になってしまいます。
鬼城の問題は社会現象となり、工事途中で中断されてしまったマンションで途方に暮れる人も大勢出てきました。
拡大の一途だった中国バブルはなんの切っ掛けで弾けてしまったのでしょうか?
2020年三道紅線(レッドライン)の施行
2020年加熱する中国不動産市況に警鐘を鳴らすべく、三道紅線という施策が始まります。
これは不動産開発業者は簡単に言えば保有資産を超えて融資を受けてはならないという上記の拡大スキームを大幅に是正する内容でした。
この事により倍々ゲームが出来なくなってしまいます。
今まで借り入れにレバレッジをかける事で売り上げを作っていたのに、融資が受けられないとなるとレバレッジを効かせられません。
レバレッジとはてこの事を意味します。
開発業者は自己資金を少なく、借り入れを増大させて事業を拡大してきました。
この部分を禁じ手とされてしまったのです。
現在の中国の開発業者がデフォルト騒ぎを起こしている根本原因は過剰なレバレッジにあります。
不動産価格と販売数の増大を前提としているスキームですので、増大の流れが止まった時がバブルの弾ける時となります。
一度堰を切ったように不動産価格が下がり始めると入ってくるはずのお金の計画が狂ってしまいます。
売れるはず、上がるはずで大量に仕掛を作ってしまっているので、予定と違って上がらなかった売れなかったでは済まないのです。
売れるはずが売れなくても支払いは訪れます。
これまで、次の開発の売り上げで払ってきていた建設費ですが、新たな開発はレッドラインにより封じられました。
現存の在庫を清算しようにも大半は売れてしまって代金をすでに使ってしまっているものばかりです。
碧桂園も恒大集団もこの基本的な構造は変わりません。
中国の不動産開発業者に共通するのは新たな開発計画が止まった時にこれまでの開発計画の代金を支払えないという事と、物件価格の下落や販売不調がもたらすキャッシュ不足のダブルパンチです。
黒字なのにデフォルトする不思議
碧桂園の損益計算書は2021年時点では黒字でした。
儲かっていたのです。
にも拘わらず、何故今回デフォルトとなるのでしょうか。
大きな要因となったのがプレ販売の規制です。
これまで、住宅の契約時に販売価格の一部や全部の支払いが行われていたものが、建物引き渡し時に支払いが行われるよう是正されました。
これにより新規開発予定地の販売により売り上げを立てて既存の支払いを行う事が出来なくなります。
そのため売り上げがたってもキャッシュが足らない事態となってしまい、支払い計画が狂ってしまうのです。
通常このような場合つなぎ融資を受けるか、保有資産を売却して対策するのですが、不動産価格の下落が止まらないため、保有している開発用地を高値で売る事も出来ません。
そもそも開発用地の殆どはプレ販売によって売ってしまっています。
今支払うべき建設費は今度のプレ販売で作る予定でした。
その「今度」の予定が頓挫してしまったので、資金繰りが詰まってしまったのです。
この話は碧桂園に限った話ではありません。
全ての不動産開発業者が大なり小なり同じ事態に陥る事になるのです。
碧桂園の事業戦略として地方都市の開発があげられます。
都市部の開発に対して地方開発が売り上げ全体の高い割合を占めていました。
これは現在のバブル崩壊の影響を非常に大きく受ける事になります。
バブル崩壊では都市部よりも地方の不動産の値崩れの方が顕著になります。
本来価値の低いはずのものが過大に値上がりする事がバブル経済です。
実体経済との乖離は地方都市の方がより鮮明となります。
地方都市開発で薄利多売を続けてきた碧桂園では、その反動もひと際大きくなったという訳です。
波及する影響は限定的
こう立て続けに中国大手不動産デベロッパーが倒産するような危機に見舞われると連鎖的に企業倒産が相次ぎそうです。
建設費の支払いが出来ないという事は下請けの建設業者は窮地に立たされます。
今、中国のデベロッパーは現金確保のためになりふり構わず在庫処分を行っております。
一件買ったら、もう一件プレゼントや金の延べ棒が付いてきたり、リゾート地のオプションなどなど換価のために躍起です。
損をしてでも現金を作らないとならない事情の背景にあるのがキャッシュ不足なのです。
膨らませ過ぎた開発中の在庫を現金に戻さないとそれらの建築費用を払う事が出来ません。
しかし、本来利益をのせて販売するものを投げ売りしているのですから、今度は営業利益が出ません。
営業利益が出ないという事は借入利息を払えない事にも繋がりますので、首が締まるのも時間の問題です。
次々デフォルトニュースが出ている中国デベロッパーですが、保有資産を償却して未払い工事金を圧縮できた業者が生き残れるというのは一つの指標となると思います。
不動産バブル崩壊と言っても中国はとても広いです。
その全土で価格破壊が起こる訳でも無く、需要の低いエリアの価格が下がり、都市部は軟調に推移すると思われます。
良い所は今後も上がり、悪い所が目立って下がる。
格差の開く値動きになっていく事でしょう。
「人は仕事のある所に住む」という賃貸原則があります。
何もない所を無理に開発した街は淘汰されていっても、本当に必要な開発地は今後も残っていくはずです。
投機熱に付き合い倍々ゲームに興じたデベロッパーはそのツケを払う事になりますが、全ての事業者がそうであった訳ではないでしょう。
収まる所に収まるという収斂が今後起こるという見方が著者の考える今後の中国不動産市場です。
関連記事で今後の碧桂園や恒大集団、中国開発業者について考察していますので併せてご覧下さい。
関連記事:恒大集団、碧桂園デフォルトからみる中国バブル崩壊の今後
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関連記事:エバーグランデの決算から分かる事
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この記事を書いた人
ライター
佐藤大介(さとうだいすけ)
ウルトラ金融大全局長
ウルトラ金融大全の監修を務めます。
金融リテラシーを高める為、セミナー講師として活動。
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