公開日:
貯蓄
準備しておく?ファースト・リパブリック・バンク破綻からの教訓
インフレを抑えるための利上げで銀行の債券が下落すれば、銀行破綻が起きてしまいます。現実的に、米国で起きている銀行の破綻は、予測できる範囲だったのでしょうか。日本に住んでいるとひとごとのように捉えがちですが、実際に2023年3月から連鎖的な銀行破綻が起きています。
ファースト・リパブリック・バンクの破綻は、2023年の銀行破綻3回目の出来事です。2023年5月に起きた連鎖的な銀行破綻から、銀行に預金する人は何を学べばよいのでしょうか。
今回は、ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻から、銀行の預金に対しての「備え」的な対策を考えてみました。国内の銀行に預金がある場合、どのような対処があるのか調べたことを解説します。
ウルトラ金融大全が動画で見れる!
お金の事が分かる!増やせる!無料動画が公開中!
目次
ファースト・リパブリック・バンクの破綻についておさらい
まず、2023年5月に発表されたファースト・リパブリック・バンクの破綻の件を解説します。どのような銀行破綻だったのか、内容を把握したうえで本記事後半で「銀行破綻への備え」に進みます。
銀行破綻のいきさつ
ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻は、シリコンバレーバンクの規模を上回る銀行破綻とのことです。
JETRO(日本貿易振興機構)のビジネス短信によると、2023年5月1日未明にFDIC(米国連邦預金保険公社)がファースト・リパブリック・バンクの経営破綻を発表しました。経営破綻後は、米国 JPモルガン・チェースが預金と資産を保護するため買収(資産の引き継ぎ)したとのことです。※1
ファースト・リパブリック・バンクを買収した米国JPモルガン・チェースは、米国ニューヨークに本社のあるグローバル総合金融サービスの企業。2023年3月に起きたシリコンバレーバンク(以下SVB)の破綻でも資産の引き継ぎを行っています。※2
ファースト・リパブリック・バンクは、全米8州に84カ所の店舗を持つ銀行でした。銀行規模は、以下のとおりです。
(2023年4月13日時点)
- 総資産:2291億ドル
- 預金総額:1,039億ドル
- 取引先:テック系企業が大半を占める
取引先の大半を占めていたテック企業が預金保険対象外となる口座当たり25万ドル以上の預金が多かった点に破綻の要素が見え隠れしていたと考えられます。それは、2023年3月のSVBの破綻から、預金保険対象外の預金の引き出しが活発となりました。その後の流れは次のとおりです。
- 2023年3月16日:他行11行より保険対象外の合計300億ドルの預金支援を受ける
- 市場の信用を取り戻すためのFederal Reserve Board(FRB:連邦準備制度委員会)から借り入れ
- 2023年4月24日:第1四半期預金残高が前年末比の40%減となる
- 2023年4月28日:ファースト・リパブリック・バンク株価が上場来安値を記録
ファースト・リパブリック・バンクは、このような経過をたどり2023年5月1日に経営破綻が発表されました。※1
米国の銀行破綻規模
今回のファースト・リパブリック・バンクの破綻は、米国の銀行破綻規模として2番目に大きな経営破綻とのことです。
- 1位:2008年貯蓄金融機関ワシントン・ミーチュアルの破綻
- 2位:2023年5月ファースト・リパブリック・バンクの破綻
- 3位:2023年3月シリコンバレーバンクの破綻※3
1位のワシントン・ミーチュアルの破綻は、リーマンショック時のことです。SVB破綻の影響を受けて規模の大きい銀行にも飛び火したようなイメージでしょうか。では、その発端となる破綻要因について次項で考察してみましょう。
2023年の米国銀行の経営破綻要因
米国では、2023年に入って銀行経営破綻が3件目となっています。
- 3月10日:シリコンバレーバンクの破綻
- 3月12日:シグネチャーバンクの破綻
- 5月1日:ファースト・リパブリック・バンクの破綻
この一連の発端は、米国におけるインフレの抑制と考えられます。米国のFRB(連邦準備制度委員会)が継続して実行してきた利上げの影響を受けてのことです。
破綻した銀行は、利上げにより保有していた債券の価格が下落します。その債券の売却損から危機感を持った預金者が預金の引き出しを始めたという状況です。
SVB破綻の教訓が生かされている部分
ファースト・リパブリック・バンクの破綻では、SVB破綻の教訓が生かされている部分もありました。それは、破綻決定となる前から米国界わいで破綻不安が報道されていたことです。
破綻不安が事前に予測できたため、SVBの預金引き継ぎ先となったJPモルガン・チェース銀行は、買収先として名乗り上げていました。そのかいあって、破綻後のFDICの保護から時間を待たずに(SVB破綻時は取引再開まで2週間掛かった)引き継ぎ先で通常営業が始められました。※1
連鎖倒産に備えた預金保護
戦争や地震災害など、自国ではなく他国で発生している事象に対して、「対岸の火事」として捉えがちではあります。米国の銀行破綻などから「日本の銀行は大丈夫?」という不安は当然のことです。
米国だけではなく、日本の銀行にも影響を及ぼさないのでしょうか。今回のファースト・リパブリック・バンクの破綻は、米国経済の利上げから、SVB破綻に至ることで銀行の連鎖破綻が予想されていたと考えられます。日本の銀行破綻などが起きた場合の身近な備えは、どのようなものがあるのか、調べてみました。
預金保護制度の対象
預金保険機構では、万が一金融機関が破綻した場合の預金保護内容や保護範囲などを説明しています。金融機関に預けている預金は、一部が保護対象となります。預金保険の対象になる預金は、次のとおりです。
- 決済用預金(当座預金・利息の付かない普通預金など):全額保護
- 一般預金など:合算して元本1000万円までおよび破綻日までの利息を保護
これら預金保険の対象となる一般預金の場合は、金融機関によって基準額の元本1000万円を超える部分も支払われる場合があります。また、預金保険の対象となる一般預金に該当する預金は次のとおりです。
- 利息の付く普通預金
- 定期預金
- 定期積金
- ビッグ(収益満期受取型貸付信託)など:元本補てん契約のある金銭信託
- 保護預かりに限定された金融債など
一般的に銀行で利用する預金に関しては、保護対象と判断できます。保護対象の上限基準は、1000万円となっているため、預金を分散することも考えられるでしょう。ただし、1000万円の上限はひとつの金融機関に対してです。合算した金額となるため、ひとつの金融機関に普通預金や定期預金、定期積金など複数の預金を持っている場合は、合算金額で判断しましょう。※4
名寄せ
合算の場合は名寄せ対象になるでしょう。名寄せは、同一の口座名義人がその銀行において複数の預金口座を持っていると必要な手続きです。銀行が破綻した際は、ひとつの金融機関で複数の口座を持っている預金者は不利になるでしょう。
たとえば、AさんがB銀行で普通預金と定期預金、定期積金など3つの口座を持っていたとしましょう。
- 普通預金:300万円+利息
- 定期預金:800万円+利息
- 定期積金:600万円+利息
Aさんは、どれも預金保険の対象範囲となる1000万円に達していないから安心していました。もし、この状況でB銀行が破綻した場合、どのような結果になるでしょうか。
普通預金+定期預金+定期積金=1700万円+合計利息
名寄せで合算した1700万円は、次のように振り分けられます。
- 預金保護の対象:1000万円+利息
- 預金保護の対象外:700万円+利息(破綻した金融機関の財産状況次第で支払われる可能性あり)
この例は、預金保険機構の「名寄せ」を参考に紹介しました。同一の金融機関で複数の口座を持っている場合は、金融機関が破綻した際の名寄せの対象となるので注意が必要です。※5
預金保険の対象外となる預金
次の預金などは、預金保険の対象外としてあつかわれます。
- 外貨預金
- 譲渡性預金
- 募集債および保護預り契約の切れた金融債
これらは、保護対象外となりますが破綻した金融機関の資産状況によっては支払われる可能性もあります。※4
銀行の連鎖的破綻への備えに何ができるか
銀行の連鎖的な破綻は、メディアなどの報道から事前に知ることもできます。ただし、連鎖の引き金となる破綻の場合は、情報入手が遅れてしまうかもしれません。後半で解説してきた預金保険機構の対応などから、資産の分散は必要ではないでしょうか。
長年使い慣れている銀行だからといって、ひとつの銀行口座だけに集約してしまうのは資産額次第で保護されないかもしれません。そのため、個人でできる対処は金融機関の分散ではないでしょうか。
日頃から、「備えあれば患いなし」の視点で資産を分散しておくことは万が一の取り組みとして大切です。その考え方は、他の資産運用にも共通すると考えられます。
ウルトラ金融大全が動画で見れる!
お金の事が分かる!増やせる!無料動画が公開中!
参照元URL
※1:JTRO(日本貿易振興機構)「ビジネス短信」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/90f2e53c8553b661.html
※2:J.P.Morgan「日本におけるJ.P.モルガン」
https://www.jpmorgan.co.jp/ja/about-us
※3:野村総合研究所(NRI)「ファースト・リパブリックバンク破綻の見通し:破綻は3行目でリーマン・ショック後最大規模」
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0501_3
※4:預金保険機構「万が一金融機関が破綻した時」
https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000134.html
※5:預金保険機構「名寄せ」
https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000017.html
この記事を書いた人
ライター
江戸利彰(えどとしあき)
ビジネス系の記事執筆を生業として取り組むライター。
累計800記事ほどの納品を経て、現在も日々の執筆から「情報の伝え方」をブラッシュアップしています。
ソースをしっかりと取る記事作りをモットーとしており、正確な情報提供に努めています。
おすすめの記事