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李克強氏の急死が与える経済への影響は?中国経済の行方を考察!
2020年、中国では毎年3月に開催される全国人民代表大会がコロナウイルスの影響下で5月に延期開催となりました。その全国人民代表大会の初日に中国政府の「政府活動報告」が示されました。
中国は、コロナ禍の影響もあって、国内総生産(GDP)の成長が見込めませんでした。その要因を当時の李克強前首相は、次のように指摘しています。
- 新型コロナウイルス感染症への対応
- 不確実性が高まる経済・貿易の情勢
中国経済は、予測困難な状況となっていると説明しています。この説明は、李克強(り・こくきょう)前首相が在任時のことです。出典:※1
習近平国家主席に次ぐ実力者であった李克強前首相は、2023年10月27日に亡くなられました。その死は、あらゆる臆測を呼ぶでしょう。
今回は、中国の李克強前首相の急死が与える経済への影響を解説します。中国経済の行方は、どのように捉えられるのか、を調べてみました。ぜひ、ご一読ください。
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目次
李克強氏のこと
突然の死亡で世界をにぎわせている中国の李克強前首相は、中国共産党の政治家でした。中国共産党における政治思想では、政治経済の分野で自由主義を主張していました。立場としては、習近平国家主席(以下習氏)に次ぐ首相を10年間務めた実力者です。
李克強前首相は、2023年3月に首相職を退きました。その後任は、習近平国家主席の側近である李強(り・きょう)氏が任命されています。出典:※2
李克強氏が掲げたリコノミクス
李克強氏は、経済政策のひとつとしてリコノミクスを掲げました。大和証券によると、リコノミクスとは中国の構造改革を重視した政策とのことです。
亡くなった李克強前首相(以下李克強氏)は、第7代の国務院総理在任中にリコノミクスを提言しました。出典:※3
李克強氏の打ち出した政策
李克強氏が打ち出してきた政策は、今後どのようになっていくのでしょうか。その部分を知るには、李克強氏が打ち出し取り組んできた政策を振り返ってみましょう。
李克強氏は、中国河南省の成長を主導してきました。とくに、農村地域の住民への対応として、エイズウイルス(HIV)感染を拡大した献血の問題にも取り組んでいます。また、首相就任時には、企業減税の推進や行政手続きの効率化も取り組んできました。
李克強氏の実施する政策は、新しいスタイルの都市化とも伝えられています。それは、都市の成長と雇用拡大によるものです。都市の成長と公共サービスの拡大をセットで新時代の都市化を進めてきた政治家でもあります。出典:※2
習氏にとっての李克強氏
習氏は、重要な経済政策を副首相である劉鶴氏ら党委員会に移管しました。その判断により、李克強氏の政策担当範囲は狭まります。
その後、李克強氏は首相の座だけではなく共産党の党中央政治局常務委員会からも除名されました。出典:※2
李克強氏が首相の座を終えたころは、習氏との溝があったのでしょうか。その点は、臆測でしかありません。ひとつ考えられることは、首相職につかれている晩年では、影響力のある部分から遠ざかっていたことが指摘されています。出典:※2
中国経済への影響
李克強氏急死の影響から、中国の経済はどのような変化をもたらすのでしょうか。ロイター通信によると、李克強氏は、リベラル派(自由主義・自由な経済推進)であったため、所得格差や貧困が問題となっていた中国を改革する人物と期待されていたかもしれません。
しかし、その期待も予想だにしていなかった突然の死で、夢と消えてしまいました。出典:※4
李克強氏は、中国の未来を変える存在だったのでしょうか。そのような折、李克強氏の急死した日(2023年10月27日)に、ニッセイ基礎研究所より中国経済の現状と注目点を考察した情報が公開されました。中でも中国の不動産市場は、マイナスの一途をたどっています。
中国の不動産市場の低迷と注目点
中国の不動産市場における実質成長率(前年同月比) |
|
2022年7月~9月期間 |
-4.2% |
2022年10月~12月期間 |
-72% |
2023年1月~3月期間 |
1.3% |
2023年4月~6月期間 |
-1.2% |
2023年7月~9月期間 |
-2.7% |
出典:※5を参考にして作成
中国の不動産市場は、相変わらず低迷が続いています。ニッセイ基礎研究所では、2つの動向に注目しています。
- 不動産開発業者における資金繰りの改善
- 保交楼政策
不動産開発業者の資金繰り
中国における不動産開発業者の資金繰りは、苦しい状況とのことです。上場不動産開発企業の決算や社債不履行の動向は、注目されています。ニュースなどで騒がれている恒大集団の株式は、2023年9月28日に香港取引所で売買停止となっています。出典:※6
大手不動産開発企業の恒大集団が債務不履行となれば、不動産業界への連鎖も考えられるでしょう。SOMPOインスティチュート・プラスの調べによると、中国で財務状況の良い不動産開発事業者も影響を受けて住宅の販売減少が懸念されているとのことです。
それにより、不動産市場全体で資金繰りが難しくなるかもしれません。資金繰りが思うように行かなくなるお手上げ状態の業者も少なくないとのことです。中国政府では、市況悪化を立て直すための緩和が進められている状況。ただし、立て直しはまだまだ十分ではないという見通しです。
中国政府が不動産市場にもたらした規制は、不動産開発事業者の過剰な住宅建設や住宅価格上昇への歯止めとのこと。2016年9月以降に発動した、居住目的ではない投機目的の住宅購入が規制されました。「一城一策」です。
一城一策は、中国の地域ごとで状況に合わせて発令されたと伝えられています。さらに追い打ちをかけた規制が2020年の住宅価格抑制策です。出典:※7
保交楼政策
保交楼とは、中国政府による消費者への住宅の引き渡し支援です。前述してきた不動産開発事業者の資金繰りが悪化したことで、建設の進まない住宅を対象に支援する保障政策。竣工面積の動向により順次行われているとのこと。
保交楼は、中国政府から業者に働きかけて建設の再開を促しますが、引き渡し遅延の解消は、中国政府が公開する情報だけでは不十分と判断されています。
一方では、2023年8月時点で保交楼向けファイナンスプロジェクトによって建設再開率100%に近くなると伝えられています。それにより保交楼発令での住宅引き渡し率は、60%以上とのことです。出典:※5
中国政府による国債の発行
2023年9月を過ぎて、低迷する不動産市場の動向は長期化が予想されています。李克強氏の急死3日前となる10月24日に、全国人民代表大会常務委員会第6回大会で国債の増加発行が承認されました。
李克強氏は、すでに政府要職を離れて一市民となっていたため、急死との関係性は考えられません。国債の増発は、金融緩和だけでは不十分という判断でしょうか。中国政府による国債増発の活用用途は、次の内容とのことです。
- 2023年に発生した自然災害の被災地向け復興支援
- 2023年に発生した自然災害を教訓とした防災関連インフラ整備
国債の増発金額は、1兆元の特別国債と示しています。2023年と2024年の2回に分けて発行する見通しです。出典:※5
李克強氏の急死と政策の行方は関係ないとの見方
李克強氏は、改革派や市場派として中国の改革や市場活性化に尽力していたとのことです。その死を政治的な変化と結びつけるのは、簡単ではありません。
冒頭でも触れたように、李克強氏は、2023年3月で任期もかねて首相の座を降りています。その交代劇の裏側は把握できない部分です。ただし、ちまたでは習氏の政治色が濃くなるという見解も考えられるでしょう。
- 政治の論理優先
- 国有企業優先
- 国家安全優先
- 規制強化重視
これらが習近平国家主席の経済政策との見解です。一方の李克強氏に期待された政策は、次の内容と伝えられています。
- 市場の論理を注視
- 民間企業への配慮
- 経済成長への取り組み
- 市場開放への取り組み
これらは、リベラル主義を提唱してきた李克強氏の政策に期待する内容とも判断されています。しかし、この見解について楽天証券経済研究所では中国共産党の実態とかけ離れていると判断しています。その判断理由は、次の3つです。
- 2期目の習近平国家主席の権力や権限は「市場派」も「改革派」などの派閥は実在しない状態
- 非市場派および非改革派での統一は中国共産党総意で決めた路線
- 政界を引退した李克強氏に政治的な発言や影響力がない状態
これら3つの理由は、李克強氏の急死が中国経済に与える影響と結びつかないという判断として伝えられています。ただし、世界の視点で考えると、中国共産党の首相経験者で西側諸国の指導に近い人物の死は大きなインパクトとなっています。そのため、あらゆる臆測が生まれるのも仕方のないことかもしれません。出典:※8
李克強氏の急死から今後の中国経済について
中国経済は、不動産市場の低迷からバブル崩壊や経済衰退などの臆測が飛び交っている状況です。ただし、日本国内からの見解では、対岸の火事のごとく間接的な情報で判断するしかありません。そのため、謀殺説なども浮上している状況です。
他国の先読みは、あくまでも臆測であってその通りになるかは未知数ではないでしょうか。今後の中国経済の動向は、世界情勢の動きで変わることが考えられます。じっくりと、注視することが大切です。
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【出典・参照元記事URL】
※1:財務省「中国」
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g818/818_e.pdf
※2:Bloomberg「中国の李克強前首相、心臓発作で死去-改革重視し習主席と距離」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-27/S35VYRDWLU6801
※3:大和証券「金融・証券用語解説『リコノミクス』」
https://www.daiwa.jp/glossary/YST3264.html
※4:ロイター通信「中国の李克強前首相が急死、68歳 習体制下で存在感低下」
https://jp.reuters.com/world/china/NMGK477VYRJM7EWK27VUFAEDXE-2023-10-27/
※5:ニッセイ基礎研究所「中国経済の現状と注目点~一段の悪化には歯止め。不動産低迷が続く中、政府は国債を増発へ」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76540?pno=1&site=nli
※6:ロイター通信「中国恒大、株式売買が停止許家印会長が警察監視下との報道」
※7:SOMPOインスティチュート・プラス「消費者支援での回復を目指す中国住宅市況~都市の規模によって濃淡~」https://www.sompo-ri.co.jp/2023/10/13/10006/
※8:トウシル「李克強元首相が急死。中国経済の成長と改革は後退へ向かうのか」
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/43139?page
この記事を書いた人
ライター
江戸利彰(えどとしあき)
ビジネス系の記事執筆を生業として取り組むライター。
累計800記事ほどの納品を経て、現在も日々の執筆から「情報の伝え方」をブラッシュアップしています。
ソースをしっかりと取る記事作りをモットーとしており、正確な情報提供に努めています。
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