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不動産
中国バブル崩壊の影響は?リーマン級になるのか解説
2023年8月17日、中国の大手不動産会社である中国恒大集団(エバーグランデ)が、米国にて連邦破産法15条を申請しました。負債総額は2兆4000億元(約47兆8975億円)を超えています。中国国内で最終的な破産手続きが行われるか定かではありませんが、今後の経営再建はかなり厳しい状況といえるでしょう。
今回の恒大集団による破産申請について、「中国経済は完全に崩壊してしまうのだろうか」と気になる人も多いはずです。本記事では、中国の不動産バブルが発生した背景から、もし中国経済が崩壊した場合、世界経済にどこまで影響を与えてしまうのかを予想していきます。
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目次
中国不動産バブル崩壊の背景
まずは、中国の不動産バブルが崩壊していった背景からみていきましょう。
レバレッジ取引による不動産バブルの形成
土地の私有を認められていない中国ですが、1988年の法改正により「土地の使用権」については譲渡・賃貸できるようになりました。50年から70年に渡る超長期の使用権の譲渡・賃貸という形式により、社会主義国家ではあるが不動産の流通が可能になったのです。
その後、中国恒大集団や碧桂園などの不動産デベロッパーが誕生し、中国での不動産事業を拡大していきました。中国大手不動産デベロッパーはリスクの高いレバレッジ戦略を用いて事業を展開。
中国の不動産業界では「プレセール」と呼ばれる契約形態が広く採用されています。「プレセール」とは住宅が完成する前に代金の一部を支払う形式です。この支払われた代金をさらに活用して別の不動産開発に投資することで、少ない資金で多くのプロジェクトを手掛けることが可能になるのです。
2000年代から人口の増加と好景気も後押し、中国の不動産市場はさらに過熱していきます。不動産が売れ続けることで土地の価格も高騰し、値上がりを見込んで投資も更に加速する相乗効果の中で中国の不動産市場は長期において値上がり続けます。
3つのレッドラインで不動産バブルがはじける
2010年代まで中国の不動産市場は好調を維持してきましたが、不動産価格が高騰し過ぎた結果、中国国民が購入できる時価の範囲を超えてしまいました。これを受けて中国政府も不動産バブルに警戒を強め、規制強化に踏み出したのです。
2020年8月に政府は3つのレッドラインと呼ばれる規制を打ち出しました。3つのレッドラインとは、①総資産に対する負債比率が70%以下、②自己資本に対する負債比率が100%以下、③短期負債を上回る現金の保有、という3つの財務指標です。
これら3つの項目に抵触している事業者は銀行融資を制限されることになります。恒大集団などの大手不動産デベロッパーが複数の項目に抵触しているとされ、たちまち資金調達に苦しむこととなったのです。その結果、不動産市場は急速に悪化していきます。
中国経済の景気減速はすでにはじまっている
2020年に打ち出された3つのレッドラインを境に、中国経済は不動産市場の低迷とともに減速していきます。その結果、デフレの進行や失業率の悪化などの問題が中国で起き始めてきました。
デフレの進行
景気減速により、中国ではデフレが進行しています。中国国家統計局が2023年8月9日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.3%下落。景気低迷が懸念されることから、自動車など耐久財の販売がさえない状況です。自動車やバイクが4.4%、スマートフォンなどの通信機器は2.6%下落。家具や家電は1.8%下落した模様です。
日本を含め、世界の多くの国はインフレが進んでいるなかで、中国ではデフレが懸念されていることに驚く人もいるでしょう。前述で解説したとおり、不動産市場は経営不振に陥り国民の信頼感は低下しています。
国民は不動産のような高額商品の購入を控えることで、家具や家電製品の需要が減少します。この消費の抑制が一層進むことで市場における価格の下落、すなわち値崩れが生じることになったのです。
加えて2022年11月に中国は「ゼロコロナ政策」を実施します。この厳格な規制により多くの企業が経営難に陥り倒産が相次いだことで、失業者が増加したのです。その結果、失業した人の収入が減り、家計の消費が冷え込んでしまったこともデフレを招いている要因の1つです。
失業率の悪化
中国経済の減速と、それに加えて「ゼロコロナ政策」によって中国では失業率の増加が深刻な状況に陥っています。中国国家統計局が発表した6月の若年失業率(16~24歳)は21.3%と過去最高を更新しました。
5年前の2018年11月(10%)から2倍以上に増加しており、失業率は年々深刻な状況になりつつあります。また、統計に含まない「就職活動をしていない非学生」1600万人を含めると、実際には5割近い失業率となる可能性も指摘されています。
失業率が増加すると所得が低下する人が増えて消費支出が減少。その結果、国内の経済成長が鈍化し、デフレ圧力がより一層高まることになるのです。
また、若年層の失業が長期化することで、社会的スキルの形成が遅れ、将来的な労働力としての資質も低下する恐れもあるのです。
世界経済への影響は?
中国経済は不動産バブルがはじけたことで減速傾向にあります。もし、中国経済が崩壊した場合に世界経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
リーマンショック級の経済危機の可能性は低い
もし、中国経済が崩壊した場合、「リーマンショック級の経済危機になるのでは?」と心配する人も多いと思いますが、今のところリーマンショックのような世界恐慌になる可能性は低いと予想できます。中国経済の崩壊とリーマンショックとでは問題の性質が異なっているからです。
リーマンショックとは、米国大手投資会社のリーマン・ブラザーズが経営破綻したことを発端とする世界的な経済危機です。同社は低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)を証券化し販売しましたが、住宅バブルの崩壊とともに、多額の負債を抱え破綻しました。
ここまで大きな金融危機を招いた理由はというと、サブプライムローンの証券化が挙げられます。リーマン・ブラザーズはこのサブプライムローンを証券化し、さらには他の金融商品とまとめて複雑な状態にしたのです。
複雑化された商品は世界各地で売買されるようになり、リーマン・ブラザーズ自体もこれらの高リスク商品に多額の投資をしていました。しかし、やがて住宅市場が崩壊すると同時に多額の損失を計上してしまったのです。
リーマン・ブラザーズが経営破綻したとき、すでに多くの複雑化した金融商品が世界中に広まっていました。このため、商品のデフォルトが発生すると、その影響が瞬く間に連鎖反応を引き起こし、世界経済に波及してしまったのです。
一方で今回の中国バブルについては、不動産に投資をしているのはすべて国内の中国人となり、世界の投資家は直接的には中国への投資は少ないといわれています。それゆえに、中国経済が崩壊した場合でもリーマンショック級の危機は訪れないだろうと予想されるのです。
日本経済に影響する可能性はある
中国経済の崩壊による世界への影響はリーマンショックほどではないと予想しましたが、日本経済に大きな影響を与える可能性は十分あります。その理由に、日本は輸出において中国に依存している点が挙げられます。
輸出産業(特に製造業)への影響
財務省の貿易統計によると、2022年の日本の輸出額に占める中国の構成比は19.4%と、日本にとって中国は1番の輸出先です。そのため、中国経済が崩壊し、内需が低下してしまえば日本からの輸出が減少する可能性が高まります。特に、日本の製造業に大きな影響を与えることになり、企業の業績悪化は免れないでしょう。
不動産市場への影響
また、日本の不動産市場にも影響を及ぼす可能性があります。中国経済が崩壊した場合、中国人による日本国内の不動産購入が減少すると考えられます。
中国では土地の所有権がないことから、所有権が認められている日本の不動産をこれまで多く購入してきました。また、日本の物件は不動産バブルだった中国に比べて、割安であったことも中国の富裕層からすれば購入しやすかったのでしょう。
しかし、中国経済が崩壊することで、富裕層の資産価値が減少し、不動産投資への能力や意欲が低下していきます。こうなると、日本の不動産へ投資する機会も減ることとなり、不動産価格が下落するのです。
さらに日本の金融機関も不動産価格の下落を警戒し、不動産購入に対する融資を控えることになるでしょう。その結果、日本の不動産投資家や個人の住宅購入希望者は不動産購入の資金調達が困難になります。こうして、不動産価格の下落スパイラルが形成されていくのです。
不動産の購入・売却を検討中の人は慎重な判断を
今回は、中国の不動産バブル崩壊の背景と、中国経済が崩壊した場合の世界経済への影響についてみてきました。現状ではリーマンショック級の経済危機が訪れる可能性は低いと予想されますが、中国への輸出に依存している日本経済への影響は大きくなる可能性は十分にあります。
今後、不動産の購入や売却を検討中の人は契約時期について慎重に考慮する必要があります。実際に、いつ中国経済が崩壊するかは誰にも分かりませんが、いつ崩壊してもすぐ対応できるように備えておく必要があるでしょう。
どのような対策を講じればよいかわからない人は、一度、不動産会社やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをおすすめします。
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出典
ロイター 中国恒大、米国で連邦破産法第15条の適用申請
https://jp.reuters.com/article/evergrande-chapter15-idJPKBN2ZS1MJ
JETRO 中国 外資に関する規制
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/country/cn/invest_02/pdfs/cn7C010_tochishoyukahi.pdf
日本経済新聞 不動産が中国経済の重荷に 恒大の最終赤字、2年で11兆円 冷える住宅需要、デフレリスク懸念
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72855720Z10C23A7EA2000/
日本経済新聞 中国経済、深まるデフレ懸念 7月物価0.3%下落 2年5カ月ぶり 車やスマホ、耐久財の販売不振
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73500250Q3A810C2EA1000/#:~:text=
日本経済新聞 中国、潜在的な若年失業率は5割弱? 増えるニート
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM207JZ0Q3A720C2000000/
JETRO 2022年の日中貿易は前年比で微減、輸出は2桁減で6年ぶりの輸入超
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/dbc3b0a5937344ad.html
総合安全工学研究所 リーマンショックとは何だったのか
http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE207_5_open.pdf
この記事を書いた人
ライター
辻本剛士(つじもと つよし)
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプランニング技能士、宅地建物取引士、証券外務員二種
独立型FPとして相談業務、執筆業務を中心に活動中。
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