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【実質増税!? 】給与所得控除見直しによる影響とは?
2023年6月30日、税制調査会で「令和時代の構造変化と税制のあり方」についての報告書を岸田首相に提出しました。この報告書には「給与所得税額の見直し」についても触れており、そのことがメディアなどに大きく取り上げられました。
しかし、「給与所得控除の見直し」と聞いていまいちピンとこない人もいるのではないでしょうか。この記事では、給与所得控除の基本的な概要と、見直しが行われた場合に何が変わるのかを解説します。また、この控除が見直された際の対策についても見ていきます。
この記事を読めば「給与所得控除の見直し」についての理解が深まり、自身の取るべき対策が見えてくるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
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目次
給与所得控とは
まずは、給与所得控除の基本的な概要からみていきます。
所得税の計算時に収入から差し引くことのできる控除のこと
「給与所得控除」とは所得税を計算する際に収入(給与や賞与など)から差し引ける所得控除のことです。この控除は、会社員やパート、アルバイトのような雇用されている給与所得者しか対象にならない制度です。
個人事業主などの経営者は、売上から経費を差し引いて残った部分に所得税などの税金が課されます。一方の給与所得者には経費というものがほとんど認められていません。それでは不公平になってしまうため、給与所得者にも「給与所得控除」という形で一定の控除が認められているのです。
給与所得控除の金額は?
給与所得控除の金額は収入によって異なります。以下の表でみてみましょう。
収入金額 |
給与所得金額 |
~1,625,000円 |
550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 |
収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 |
収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 |
収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 |
収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円~ |
1,950,000円 |
例えば、年収が600万円の人の場合は以下の計算式で給与所得控除を求めます。
600万円×20%+44万円=164万円
つまり、年収600万円にたいして、164万円を経費(控除)として差し引けるのです。
給与所得控除の見直しで何が変わる?
では、給与所得控除の見直しが実施された場合に何が変わるのでしょうか。以下でみていきます。
見直しが実施されると増税になる可能性が高い
もし、見直しが実施された場合は、増税と捉えてもよいでしょう。この給与所得控除は給与所得者にとって経費となります。その経費が見直されて少なくなってしまうと所得税や住民税などの税金が増額してしまうのです。
今回の給与所得控除について詳しい改正案などは提案されていません。しかし、税制調査会の報告書によると、給与収入総額の3割程度が給与所得控除として控除されています。一方で、実際には給与収入の3%程度しか経費となる支出はしていないと指摘しています。
もし、給与所得控除が今後3%まで縮小されてしまうと、大幅に税金が増えてしまうでしょう。
どれだけ税金が増える?
では、実際どれだけ税金が増えてしまうのか、給与所得控除が3%まで縮小した場合を想定して、所得税がいくら増額するか試算してみます。年収600万円の人を例にみていきましょう。
まず、現行の給与所得控除で計算した場合、年収600万円は「収入金額×20%+44万円」が該当します。計算すると、600万円×20%+44万円=164万円が給与所得控除になります。その結果、給与所得額は600万円-164万円=436万円です。
給与所得者の所得税は以下の計算式です。
所得税額=(収入-給与所得控除)-所得控除×所得税率
次に所得控除を挙げていきます。所得控除はいくつか項目が存在し、今回は「基礎控除」と「社会保険料控除」を所得控除に入れます。
基礎控除は48万円、社会保険料控除は85万4,100円(健康保険・厚生年金)として計算。
(600万円(年収)-164万円(給与所得控除))-133万4,100円(所得控除)=302万5,900円
302万5,900円が課税対象になる金額です。この金額を基に所得税の税率を求めます。以下の表を参考に所得税の税率をみていきましょう。
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで |
5% |
0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで |
10% |
97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで |
20% |
427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで |
23% |
636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円 以上 |
45% |
4,796,000円 |
国税庁 No.2260 所得税の税率から筆者作成
上記の表のとおり課税所得が302万5,900円の場合は税率10%です。以下でこの計算式を当てはめていきましょう。
・302万5,900円(課税所得)×10%(税率)-9万7,500円(控除額)=20万5,090円
現行の給与所得控除を適用した場合の所得税額は20万5,090円となります。
次に、もし給与所得控除が3%までに縮小した場合に所得税がいくらになるかみていきます。
年収600万円の3%となると、適用される給与所得控除はわずか18万円です。
・600万円(年収)-18万円(給与所得控除)-133万4,100円(所得控除)=448万5,900円
448万5,900円×20%-42万7,500円=46万9,680円となります。
したがって、所得税の増税額は46万9,680円-20万5,090円=26万4,590円となります。実際には所得税に加えて住民税も増えるため、税負担はさらに大きくなるでしょう。
さすがに給与所得控除が3%まで縮小される可能性は低いかもしれませんが、見直しが実施された場合は増税を覚悟しておく必要があります。
給与所得控除以外にも見直しが決定した税制
その他にも今回の報告書で見直し項目の対象になっている税制があります。以下でみていきましょう。
退職所得の見直し
退職所得についても今後見直しが実施される可能性もあるでしょう。
退職金には税金の面で非常に優遇される仕組みになっています。具体的には退職所得から退職所得控除を差し引けるのです。以下で退職所得控除の計算式をみてみましょう。
勤続年数 |
退職所得控除額 |
20年以下 |
400,000円 勤続年数 |
20年超 |
8,000,000円 + 700,000円 (勤続年数 ― 20年) |
例えば、25年勤務していた人が退職金1,000万円を受けとった場合でみていきます。まず、退職所得控除が800万円+70万円(25年-20年)=1,150万円になります。
退職金1,000万円に退職所得控除1,150万円を差し引くと所得はゼロになり、退職金を非課税で受け取れるのです。
政府はこの退職金について、退職金控除が転職の妨げになっていると指摘しています。具体的な見直し案は発表されていませんが、今後見直しが実施された場合、非課税で退職金を受け取れる人は減ってしまうかもしれません。
生命保険料控除の見直し
生命保険料控除も見直しの対象に挙げられています。生命保険料控除は一般生命保険、個人年金保険、介護医療保険の3つで構成されており、4万円ずつ最大12万円の所得控除を受けられます。
しかし、保険のなかには貯蓄性や投資性のある商品も存在し、資産を増やせつつ、さらに節税もできてしまうことから他の金融商品と公平さが欠けていると指摘しています。
これについても具体的な改正案は発表されていませんが、見直しが実施された場合、生命保険料控除額の縮小、または廃止などもありえるかもしれません。
見直しが実施された場合の対策は?
見直しが実施された場合は実質増税になってしまうことから、増税分の節税や収入アップを図りたいところです。ここからは、以下の節税や収入アップにつながる対策について解説します。
ふるさと納税
1つ目の対策は「ふるさと納税」です。
ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄付ができる制度です。寄付金のうち自己負担分である2000円を超える部分については、一定の金額まで所得税・住民税から税額控除されます。
さらに、寄付した自治体から「返礼品」が送られる仕組みです。寄付先を変更しただけなので、節税とはいえませんが、返礼品が届く特典付きなので、実質的に節税につながっているといえるでしょう。
確定拠出年金(iDeCo)
「確定拠出年金(以下、iDeCo)」とは公的年金にプラスして給付が受けられる年金制度です。20歳以上65歳未満で、公的年金の被保険者の人が加入でき、掛金は全額所得控除の対象となります。iDeCoの特徴は次の4つです。
・運用益が非課税
・掛金が全額所得控除
・商品数が厳選されている
・受け取り時にも税金の優遇処置がある
通常は運用益にたいして約20%の税金が課されます。しかし、iDeCoの場合は運用している際に得た利益はすべて非課税になります。また、掛金は、全額所得控除の対象となり、課税所得額から差し引かれるため、所得税や住民税の節税にもなります。
さらに、iDeCoは最終的に掛金を受け取るときにも大きな節税効果が期待できるのです。受給年齢に到達し、iDeCoを一時金で受け取る場合は「退職所得控除」、年金で受給する場合は「公的年金等控除」の対象です。
とくに、一時金で受け取る場合は「退職所得控除」が大きな節税効果を発揮します。このようにiDeCoは節税しながら資産運用ができる制度のため、活用を検討する価値が十分にあるでしょう。
ただし、iDeCoで積み立てた掛金と運用益は、原則60歳以降でないと解約できません。iDeCoを検討する際は、60歳以降まで取り崩す必要のない余裕資金で行いましょう。
また、iDeCoは元本保証のない商品も存在しています。そのため、運用の成果次第では掛金よりも減ってしまうこともある点にも考慮する必要があります。
資産運用(NISA)
資産運用を行いお金に効率的に働いてもらうことで、増税分の収入を増やすことも1つの選択肢です。
資産の一部を株式や投資信託などで運用することで、効率よく資産を増やしていきます。近年は100円から少額で資産運用を行う環境が整っており、投資歴が浅い人や運用資金が少ない人でも始めやすくなっています。
また、資産運用を始める際は、NISA(少額投資非課税制度)口座の利用がおすすめです。「NISA」とは「少額投資非課税制度」で、NISA口座で得た利益に対して税金が非課税となる制度です。
例えば、100万円で購入した株式を150万円で売却。
この場合、差額の50万円が利益です。この利益に対して通常約20%(約10万円)の税金がかかります。もし、NISAを利用すれば、約10万円の税金が非課税となるのです。
また、2024年からは新NISAが開始され、優遇処置が拡大し、さらにお得な制度へと変わります。この機会にNISA口座の開設を検討してみてはいかがでしょうか。ただし、資産運用は元本割れのリスクがあります。リスクを十分理解した上で行ってください。
副業
増税になる分だけ副業を始めることも有効な手段となるでしょう。仕事終わりや休日の空いている時間にアルバイトなどをして、副業収入を得ることで月に数万円の収入アップが見込めます。アルバイト以外にも業務委託として、クラウドソーシングで副業収入を得る方法もあるでしょう。
クラウドソーシングとは、インターネットを通じて仕事を受注できるサービスです。例えば、WEBライターやWEBデザイン、オンライン講師などはクライドソーシングで仕事を受注できます。
その他にもさまざまな形で副業できる環境が整ってきているので、一度クラウドソーシングサイトなどを確認してみてはいかがでしょうか。
ただし、副業を行う場合は本業に影響がでない程度にしておきましょう。影響が出たせいで仕事のパフォーマンスが低下してしまうと、仕事の評価が下がってしまうリスクもあります。
また、副業で20万円以上の収益が発生した場合は確定申告が必要になる点にも注意が必要です。
日頃から給与明細を確認する意識をもって生活しよう
今回は、給与所得控除の見直しについて解説しました。
「給与所得控除」とは所得税を計算する際に収入(給与や賞与など)から差し引ける所得控除のことです。もし、見直しが実施された場合は、実質増税と捉えてよいでしょう。
その際の対策は以下のとおりです。
・ふるさと納税
・確定拠出年金(iDeCo)
・資産運用(NISA)
・副業
などを上手く活用して対策してください。
会社員のような給与所得者は給料から天引きで税金を引かれるため、増税したことに気づきにくいのです。そのため、知らない間にじつはどんどん増税されているかもしれません。
日頃から給与明細をみる習慣があれば増税したことに気が付き、自然と対策が見えてきます。適切な対策をとって、自身のお金を守りましょう。
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出典
内閣府 令和5年6月 わが国税制の現状と課題 ―令和時代の構造変化と税制のあり方https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/5zen27kai_toshin.pdf
国税庁 No.1410 給与所得控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
国税庁 NO.1199 基礎控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
全国健康保険協会 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r5/ippan/r50228hyogo.pdf
国税庁 No.1130 社会保険料控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm
国税庁 NO.2260 所得税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
iDeCo公式サイト iDeCoってなに?
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/
公益財団法人 生命保険文化センター 生命保険と税金
https://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/tax/22.html
金融庁 NISAとは?
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
この記事を書いた人
ライター
辻本剛士(つじもと つよし)
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプランニング技能士、宅地建物取引士、証券外務員二種
独立型FPとして相談業務、執筆業務を中心に活動中。
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