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【フランスで広がる大規模なデモ】何が起きているの?

【フランスで広がる大規模なデモ】何が起きているの?

2023年1月からフランスでは、年金制度改革に反対する大規模なデモ活動・ストライキが繰り返し行われています。なぜフランスではここまで大規模なデモ活動・ストライキに発展してしまっているのでしょうか。
本記事では、フランスの年金制度改革によって引き起こされたデモ・ストライキの背景や、フランスの年金制度について解説していきます。

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政府の打ち出した年金制度改革の内容

2023年1月から繰り返されている大規模なデモ活動・ストライキのきっかけは、マクロン大統領が打ち出した年金制度改革案が原因です。

年金制度改革案は次の通りです。
・年金の支給開始年齢を現在の62歳から64歳に引き上げ
・年金支給最低保障額の引き上げ

マクロン大統領は年金の支給開始年齢を、現在の62歳から64歳に引き上げることを柱にした改革案を発表しました。具体的には現在62歳の受給開始年齢を2023年9月から段階的に引き上げ、2030年に64歳とする改革案です。年金拠出期間が不十分な場合などは67歳まで納めることも可能。
当初は65歳を想定していましたが、組合などの反発が予想されることから64歳と1年早めることになりました。

さらに、フランスでは年金支給最低保障額が定められています。受給額が少ない年金生活者への年金最低支給額を、2023年から月額1,200ユーロ(約17万3,000円)程度とし、現状より100ユーロ程度引き上げることも提案しました。

「そもそもなぜ退職年齢の引き上げが必要なのか」

フランスの年金制度は、1970年代の終わりには、年金生活者1人に対して3人の労働者でささえられていました。しかし、現在では年金生活者1人に対して、1.7人の労働者で支えなければならない事態になっています。さらにこの状態が続けば、2040年には1.5人で支える想定です。

年金制度の赤字も深刻な状態です。このまま何も対策を練らなければ、2027年には12.4億ユーロの赤字になり、2030年には13.5億、2035年には20億以上、2040年には25億ユーロ近くになると予測されています。
フランスにとって社会保障制度を持続可能なものとするためには、何かしらの対策を打ち出すことが必要だったのでしょう。出典:Ouest-France

反発した組合による大規模なデモ活動

今回のマクロン大統領の改革案に反対する労働組合が、1月19日に大規模なデモ活動・ストライキを起こしました。その中には学校の教員らも加わっています。フランス内務省によると反年金改革デモには112万人が参加したと発表。今回のデモ活動やストライキによって、国鉄やパリの地下鉄など交通機関の運行は大きく乱れることになりました。

この大規模なデモ活動を受けてマクロン大統領は、訪問先のスペイン北東部バルセロナで記者会見し「全ての意見が表明されるのは良いことだ」と述べました。その一方で、公正な改革だとして「敬意と対話の精神、決意をもって遂行する」と明言。

この発言から、マクロン大統領は今回の年金制度改革について一歩も引かない姿勢をしめしていることが分かります。

その後もデモ活動やストライキは続く

その後もフランスでは大規模なデモ活動・ストライキが繰り返されています。
以下、2023年に起きたフランスのデモ活動・ストライキの情報をいくつか紹介します。

1月31日:大規模デモが全土で展開され、フランス内務省は約127万人が参加したと発表しました。デモを主催した主要労働組合は参加者を約250万人だと主張 東京新聞

2月7日:フランス全土で、年金受給開始年齢の引き上げ案に抗議する大規模なデモ活動・ストライキが行われました。国内最大の労働組合「労働総同盟」(CGT)によると約200万人が参加したと発表。
しんぶん赤旗 年金改悪案に抗議デモ

2月11日:年金改革に抗議するデモが行われ、96万3,000人が参加しました。仏テレビ局BFMTVが同国内務省の情報を引用して報じています。
フランス労働総同盟(CGT)は、デモには250万人が参加したと発表。
SPUTNIK 仏、年金改革への抗議デモに約100万人参加 無期限ストライキ宣言との脅しも

3月3日:電力公社EDFの労働組合がストライキを起こしました。このストライキにより稼働低下が生じてしまい、原子炉4〜5基分の出力に相当する発電量の低下が起きたとフランスメディアは報道。
日本経済新聞 仏で再び大規模スト、年金改革に反対 原発発電量も低下

3月7日:フランス各地260カ所以上でデモが実施され、フランスメディアによるとデモ参加者は128万人といわれています。今回の年金改革に反対するデモ参加人数としては最大となりました。いっぽうで労働組合側は今回のデモ参加者は350万人と発表しています。
日本経済新聞 仏で再び大規模スト、年金改革に反対 原発発電量も低下

3月23日:内務省によるとフランス全土で110万人近くがデモ活動に参加したと発表。治安部隊との衝突も相次いだ。今回のデモの影響で、26日から予定されていたチャールズ英国王の訪仏は延期が決まりました。
日本経済新聞 仏、反年金改革110万人デモ 治安部隊と衝突 英国王、訪問を延期

3月28日:フランス各地で年金制度改革に反対する労組のデモ活動:ストライキが行われました。内務省によると、デモ参加者は全国で約74万人。前回23日の約110万人から縮小しました。フランスのメディアによると、改革の撤回を求める労働組合は次の一斉抗議を4月6日に設定。
日本経済新聞 フランスの反年金改革デモ、参加者74万人に縮小

マクロン政権1期目も年金制度改革をめぐる衝突が起きていた

マクロン大統領の年金制度改革は今回が初めてではありません。マクロン大統領は大統領任期の1期目から年金改革を主張してきました。フランスの年金制度は他国と比べて受給開始年齢が早く、財政への負担が大きいためです。

経済協力開発機構(OECD)によると、2017年時点のフランスの年金向け公的支出は国内総生産(GDP)比で13.6%。OECD加盟国平均(7.7%)を大きく上回っています。しかし、2019年の改革案は、国鉄職員らによる長期のストライキなどで実現できませんでした。当時のデモ参加者は約80万人といわれています。

2019年の年金改革案は、労働者は1日働くごとにポイントが付与され、ポイントに応じて年金受給額が決まるシステムを計画していました。しかしこの改革案では、船員や弁護士、オペラ関連の労働者など、非常に恵まれた年金システムがなくなってしまうことから、労働組合から反発を受ける形になってしまったのです。
出典:公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構 フランス・南欧の年金に関する調査研究

フランスと日本の年金制度を比較

ここからはフランスの年金制度と日本の年金制度を比較していきます。

【保険料率】

フランスの保険料率は17.75%で本人が7.30%負担、事業主が10.45%負担になります。
日本の保険料率は厚生年金が18,3%で、本人と事業主で折半です。フランスでは事業主が保険料を多く負担していることがわかります。

【受給開始年齢】

現在のフランスの年金受給開始年齢は62歳からとなります。日本の場合は65歳から受給開始、他の国ではアメリカ、イギリスは66歳から、ドイツは65歳から開始です。
この比較を見ると、フランスの年金受給開始年齢は他国よりも早いことが分かります。

【最低加入期間】

フランスでは最低加入期間に定めはなく、1四半期(3ヶ月)でも加入していれば支給されます。ただし、満額受給するためには拠出期間41年が必要です。一方の日本では、国民年金の場合10年以上の加入がなければ受給資格を得ることはできません。

【その他の給付】

その他の給付については、フランス、日本ともに障害年金と遺族年金が存在しています。
障害年金:障害の程度により基準額の30%から50%(+加算金)が支給。基準額はもっとも高い10年間の平均賃金を採用。
遺族年金:被保険者が死亡した場合、その配偶者又は配偶者であった者(55歳以上)は、受け取ると見込まれていた額の54%が支給。

このように、日本と比較してみて、フランスの年金制度は日本よりも受給開始年齢が早く、財政への負担が大きいことがわかります。
出典: 欧米地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向(フランス)
出典:厚生労働省 年金制度の仕組みと考え方
出典:厚生労働省 諸外国における高齢者雇用対策

マクロン大統領は本改革を強行採択

年金制度改革案による大規模なデモ活動やストライキが起こっている要因と背景、フランスにおける年金制度の内容について解説してきました。ここからは、2023年4月1日現在の状況を解説していきます。

フランスのマクロン大統領は3月16日、年金受給開始年齢の64歳への引き上げを軸とする年金改革法案を強行採択しました。国民議会(下院)の採決で賛成多数が得られないと判断したからです。

これに対して野党は内閣不信任決議案を提出。不信任案が可決されれば法案は不成立となりますが、3月20日、内閣不信任決議案は僅差で否決されました。憲法の規定で、マクロン政権が進める年金改革法案の採択が確定します。

フランス年金制度改革のゆくえは

フランスの抗議活動は一段と活発になっています。年金改革そのものに加え、強行採択を選んだマクロン政権の非民主的な姿勢に強く反発する国民が今後さらに増える見込みです。

マクロン政権は今後、年金制度改革を推し進めていくのか、それともデモ活動やストライキに応じて改革案の取り辞め、または妥協案を提出するのか気になるところです。現状では、このまま年金制度改革の実現に向けて突き進むと考えられます。

フランスの大統領には連続2期までという制限があります。2019年の1期目では年金制度改革案はデモ活動やストライキにより白紙に戻りました。無理を通して改革案を進めてしまうと、大きな反発を呼ぶことになってしまい、1期目で退陣する可能性があったからです。

しかし、今回はどれだけ反発されようが2027年でマクロン政権は終わりです。このことから、マクロン大統領は年金制度の問題に立ち向かうべく、国民の支持率が下がってでも年金制度改革を押し進めるとみられます。

今回の記事はいかがでしょうか。お金に関する知識をもっと知りたい方は是非無料セミナーに参加してみてください。

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この記事を書いた人

辻本剛士

ライター

辻本剛士(つじもと つよし)

CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプランニング技能士、宅地建物取引士、証券外務員二種
独立型FPとして相談業務、執筆業務を中心に活動中。

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