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貯蓄
年金の繰下げ受給は本当に得!? メリット・デメリットを解説
年金の「繰下げ受給」という言葉を聞いた人も多いと思います。年金の繰下げ受給とは、年金の受給時期を遅らせることで年金受給額を増額できる制度です。
人生100年時代、リタイア後の生活に不安を抱える人にとって月々の年金額が増えるのは大きなメリットです。しかし、その一方で、デメリットや注意点もあります。
本記事では、年金の繰下げ受給の基本的な概要とメリット・デメリットについてみていきます。繰下げ受給に向いている人の特徴についても解説します。年金の繰下げ受給が自身にとって有益かどうか、しっかり吟味して決めましょう。
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目次
年金の繰下げ受給とは
年金の繰下げ受給とは、年金の受給期間を遅らせることで年金受給額を増額できる制度です。この増額は一生涯続きます。
65〜75歳の間で任意のタイミングで開始でき、基礎年金と厚生年金のどちらか一方のみを繰下げすることもできるため、ライフスタイルに合わせた選択が可能です。
この制度によって、働けるうちは働いて生活費を稼ぎ、退職後に増額された年金で生活を支える、といった選択の幅が広がりました。
年金の繰下げ受給の注意点
年金には様々な種類がありますが、全ての年金で繰下げ受給を選択できるわけではありません。
繰下げの対象になるのは基本的に以下の2種類です。※
・老齢基礎年金
・老齢厚生年金
障害年金や遺族年金を受給している場合、繰下げ受給を申請できません。
障害年金:病気やけがで生活や仕事が制限させるようになった場合に受給できる年金
遺族年金:亡くなった人によって生計を維持されていた遺族が受給できる年金
年金の繰下げ受給ができるのは、障害年金・遺族年金を受給する権利が発生するまでの期間になるので注意しましょう。
※第一号被保険者(自営業やフリーランスなど)で付加年金に加入している場合はそれも対象になります。
増額率の計算方法
年金の繰下げ受給による年金の増額率は、1ヵ月あたり0.7%(最大84%)です。
増額率=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申請した月の前月までの月数
65歳から70歳になる月まで5年分の年金の受給を繰下げると、繰下げ期間の月数は60ヵ月になります。
この場合、将来受け取る年金の増額率は0.7%×60ヵ月で42%になります。
仮に老齢基礎年金を6万5,000円、老齢厚生年金を15万円、合わせて21万5,000円受給する予定だった人が5年間繰下げをした場合、
21万5,000円×42%=9万300円
となります。
70歳時点で受け取れる年金は
21万5,000円+9万300円=30万5,300円
となり、月々の年金収入が大きく増えることがわかります。
出典:日本年金機構 年金の繰下げ受給
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
繰下げ受給のメリット
繰下げによる増額は一生涯続きます。
長生きすればするほど受給総額が増えるのはもちろんですが、人生100年時代の長生きリスクに備えることができるのは大きな魅力です。また、増額された年金はリタイア後の生活の支えになります。
夫婦の老後生活に最低限必要な生活費は約23.3万円、ゆとりある生活を送るのに必要な生活費は約37.9万円という調査結果があります。
年金の繰下げ受給を活用すれば、退職後も生活水準を保つ、またはゆとりのある生活をする可能性が広がります。
出典:公益財団法人生命保険文化センター 老後の生活費はいくらくらい必要と考える?https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1141.html
繰下げ受給のデメリット
年金の繰下げ受給には年金が一生涯増額されるという大きなメリットがありますが、一方で無視できないデメリットもあります。
また人によって年金の加入状況が異なるため、判断が難しいのも事実です。
自身の状況と照らし合わせて、最適な判断ができるようにしましょう。
税金の額が増える
年金の繰下げ受給をして年金が増額されると、税負担が増える可能性があります。
年金は収入となるので課税の対象です。
収入が増えれば当然所得税や住民税などの税金、国民健康保険料や介護保険などの社会保険料も増えることになります。
控除があるとはいえ、年金の受給額が増えれば増えるほど税金も増えるため、年金の増額分ほど手取り額は増えません。思った以上に少ないと感じる人も多いでしょう。
年金の繰下げ受給をするかどうかを判断する際には、繰下げた場合に税金がおよそどのくらいになるのか計算しておくと安心です。国民健康保険料の料率は自治体によって異なるため、HPなどで確認してみましょう。
加給年金・振替加算が受け取れない
繰下げ期間中は、加給年金・振替加算を受け取ることができません。
加給年金とは、被保険者期間が20年以上かつ65歳時点で生計を担っている被保険者に、65歳未満または18歳未満の子どもがいる場合に受け取れる年金です。振替加算は配偶者が65歳になり加給年金が打ち切られた際に配偶者の年金に加算される制度です。
繰下げ受給を選択することで、加給年金の受給期間が短くなる、もしくは繰下げ期間中に加給年金の受給資格が喪失してしまう場合があります。
また年金の繰下げをしても加給年金が増額されることはありません。年金の繰下げ受給は、加給年金の受給期間と繰下げ受給した場合の増額率を比較して検討しましょう。
出典:日本年金機構 加給年金額と振替加算
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html
受取総額が減る場合がある
繰下げ受給によって年金を増額しても、受給期間が短ければ受給総額が少なくなる場合があります。
例えば、急な事故や病気など、万が一のことがあって受給期間が短くなってしまうと、繰下げ受給をせずに年金を受給していた方が受給総額が多かった、ということもあります。
数百万単位で受給総額が変わることや、場合によっては年金をもらう前に亡くなってしまう可能性も考えられます。そのため、年金の繰下げ受給を選択する際は、そのようなリスクも視野に入れて将来設計をしましょう。
年金の繰下げ受給の損益分岐点
では、いったい何歳まで生きれば65歳から受給する場合の総額を上回れるのでしょうか。
繰下げ期間 |
受給開始時期 |
損益分岐点 |
5年 |
70歳 |
81歳11か月 |
10年 |
75歳 |
86歳11か月 |
現在、日本の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。※
損益分岐点になる年齢と平均寿命、病気や事故のリスクを考えると、年金の繰下げ受給が多くの人にとって得であるとは言い切れません。
月々の生活費、いざという時の貯蓄額など、家計を総合的にみて判断することが大切です。
出典:厚生労働省の 令和3年簡易生命表の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life21-02.pdf
年金の繰下げ受給に向いている人
ここからは、年金の繰下げ受給に向いている人の特徴をみていきましょう。
繰下げている間の生活費に困らない
年金を繰下げている期間、生活費に困らないのであれば年金の繰下げ受給を検討する余地があります。
年金の繰下げ期間は年金が受給できないため、年金以外に収入が必要です。65歳以降も働く予定があり生活できるだけの収入がある場合は、働けるうちは働いて、退職後に増額された年金を受け取るという選択も1つの手段となり得ます。
年金額が少ない
そもそもの年金額が少ない場合は、繰下げによって増額しても税負担が変わらない可能性があります。65歳以上は158万円(公的年金控除110万+基礎控除48万円)までは非課税となり、そこに各種控除が加わります。
繰下げ受給によって年金が増額されても、控除の範囲内に収まる場合は税金の心配がありません。そのため、厚生年金のない第一号被保険者である自営業やフリーランスの人は、年金の繰下げ受給に向いていると言えるでしょう。
年金の繰下げ受給に向いていない人
次に挙げるような人は年金の繰下げ受給に向いていない場合があります。
・年金で生活費をまかなっている
・年金額が大きい
上記に該当する人は、繰下げ受給の選択を慎重に検討することが重要です。以下で詳しくみていきましょう。
年金で生活費をまかなっている
年金で生活費をまかなっている場合、年金の繰下げ受給はおすすめできません。
繰下げ期間中に生活に困ってしまっては本末転倒です。
年金以外に収入がない状況で無理に繰下げ受給をすれば、繰下げ期間に老後資金を取り崩すことになってしまいます。
年金の繰下げ受給をしたい場合は、繰下げ期間中に生活費をまかなえるだけの収入を確保することを前提にしましょう。
年金額が大きい
そもそもの年金額が大きい人は繰下げ受給には向いていません。
年金受給額が増えれば増えるほど、控除の範囲を大きく超えてしまい税金の負担が増してしまいます。
繰下げ期間の公的年金控除を無駄にすることや受給にかかる税負担を考えると、年金額の大きな人にとって年金受給額を増額するメリットは減少してしまうでしょう。
現役時代に年収が高く厚生年金の受給額が大きい人や、iDeCoを年金として受け取る予定の人は、繰下げ受給について慎重に考える必要があります。
年金の繰下げ受給の手続き方法
年金の繰下げ受給には手続きが必要です。繰下げを希望する時期に「繰下げ請求書」を近くの年金事務所、年金相談センターに提出しましょう。
繰下げ請求書は日本年金機構のHPからダウンロード、もしくは近くの年金事務所に行けば用紙を手に入れられます。また、年金の受給状況によって提出する請求書の種類が異なるので注意しましょう。
手続きを行った時点から繰下げ期間のカウントが始まります。希望する時期がきたら忘れずに申請をしましょう。
繰下げ受給の判断に迷ったらFPに相談を
年金の繰下げ受給とは、年金の受給開始期間を遅らせることで年金の受取額を増額する制度です。
一生涯増額が続くメリットがある一方、税負担が増える、寿命によっては受給総額が減ってしまうなどのデメリットもあります。
ライフスタイルや生活費、万が一の貯蓄額はもちろん、各々の価値観によっても見解が分かれ、正解はありません。
自身や家族の年金の加入状況を整理し、家族間で話し合ったりFPに相談したりして繰下げ受給について慎重に判断しましょう。
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この記事を書いた人
ライター
辻本剛士(つじもと つよし)
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプランニング技能士、宅地建物取引士、証券外務員二種
独立型FPとして相談業務、執筆業務を中心に活動中。
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